「骨折の手術はうまくいって、無事に家に帰ってきた。でも、また転んで折れたらどうしよう」。骨折を経験した親を支えるご家族から、よく聞く不安です。
その不安には根拠があります。高齢の方の骨折の多くは、骨がもろくなる骨粗しょう症(骨粗鬆症)が背景にあり、一度骨折した方は、次の骨折が起こりやすくなることがわかっています。しかも、そのリスクは最初の骨折のあとしばらくの間が特に高いと報告されています。
一方で、骨粗しょう症の薬には、骨折を減らす効果が大きな臨床試験で確かめられているものが複数あります。それにもかかわらず、骨折の治療が終わったあと、骨粗しょう症の治療が始まらないまま、あるいは途中で止まったままになっている方は少なくありません。
この記事では、名古屋で訪問診療を行うごうホームクリニックが、骨粗しょう症の薬が骨折をどれだけ減らしたのかを主な研究の結果で紹介し、薬を続けるときの注意点と、通院が難しくなった方が家で治療を続ける方法をお伝えします。
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目次
■一度骨折すると、次の骨折が起こりやすくなる
◎「転んだだけで折れた」は骨粗しょう症のサイン
立った高さから転んだ程度で骨が折れることを「脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折」と呼びます。太ももの骨のつけ根、背骨、手首、肩の骨などに多く、その多くは骨粗しょう症が背景にあります。骨折そのものの治療とは別に、骨粗しょう症の治療を考えるきっかけにしてほしい出来事です。

◎骨折のあとしばらくが、特に危ない時期
約1万9千人を長期間追った研究では、二度目の骨折のリスクは最初の骨折の直後が最も高く、1年後の時点でも一般の人と比べて約2.7倍でした。時間がたつと下がりますが、10年後でも約1.4倍と高いままでした(Johansson ら, 2017年)。骨折のあと、できるだけ早く次の骨折への備えを始めることが大切です。
◎背骨の骨折は気づかれないことがある
背骨の圧迫骨折は、はっきりした転倒がなくても起こり、痛みが軽いと見過ごされることがあります。身長が縮んだ、背中が丸くなってきた、という変化も、骨粗しょう症が進んでいるサインのことがあります。
■骨粗しょう症の薬は、骨折をどれだけ減らしたか
ここでは、骨折を減らす効果を確かめた代表的な臨床試験の結果を紹介します。いずれも、薬を使ったグループと、偽薬(または別の薬)を使ったグループを比べた研究です。
数字を読むときは、次の点に注意してください。
- 試験ごとに、対象となった人(年齢、骨折の既往など)や期間が違います。試験どうしで減った割合を比べて、どの薬が優れているかを判断することはできません。
- 「○%減った」は、そのグループ全体で骨折が起きた割合の差です。一人ひとりに同じ効果が出ることを約束するものではありません。
◎骨を壊すはたらきを抑える薬(ビスホスホネート製剤)
| 研究 | 対象と期間 | 結果 |
|---|---|---|
| アレンドロン酸(FIT試験, 1996年) | 背骨の骨折がある女性約2,000人、3年 | 新しい背骨の骨折が約半分(15.0%→8.0%) |
| リセドロン酸(HIP試験, 2001年) | 70〜79歳の骨粗しょう症の女性など、3年 | 70〜79歳の骨粗しょう症の方で、太ももの骨のつけ根の骨折が3.2%→1.9% |
| ゾレドロン酸(HORIZON-PFT試験, 2007年) | 骨粗しょう症の女性約7,700人、平均73歳、3年 | 背骨の骨折が約70%減、太ももの骨のつけ根の骨折が約41%減 |
なお、リセドロン酸のHIP試験では、主にほかの危険因子で選ばれた80歳以上のグループでは、骨折の減り方に統計的にはっきりした差は出ませんでした。年齢や状態によって、得られる効果は変わり得ます。
◎太ももの骨のつけ根を骨折した方を対象にした研究
在宅医療の現場に特に関係が深いのが、太ももの骨のつけ根を骨折して手術を受けた方を対象にした研究です(HORIZON-RFT試験, 2007年)。手術後90日以内にゾレドロン酸の点滴を始めた約2,100人を、中央値で約2年追いかけました。
- 新たな骨折:13.9%→8.6%(約35%減)
- 期間中に亡くなった方の割合:13.3%→9.6%(約28%減)
骨折のあとに骨粗しょう症の治療を始めることが、次の骨折を減らすことにつながると示した研究です。
◎そのほかの薬
| 研究 | 対象と期間 | 結果 |
|---|---|---|
| デノスマブ(FREEDOM試験, 2009年) | 60〜90歳の骨粗しょう症の女性約7,900人、3年 | 背骨の骨折が約68%減、太ももの骨のつけ根の骨折が約40%減 |
| テリパラチド(2001年) | 背骨の骨折がある女性約1,600人、中央値21か月 | 背骨の骨折が14%→5%、背骨以外の骨折が6%→3% |
| ロモソズマブ(ARCH試験, 2017年) | 骨折の既往がある女性約4,100人、2年 | 骨を壊すはたらきを抑える飲み薬と比べて、新しい背骨の骨折が約48%減 |
骨を作るはたらきを高める薬(テリパラチド、ロモソズマブ)は、骨折を繰り返している方など、骨折の危険が特に高い方で検討されることが多い薬です。
◎効果が数字に表れるまでには時間がかかる
ビスホスホネート製剤の研究をまとめた解析では、100人が治療を受けたとき、背骨以外の骨折を1件防げるようになるまでに約1年(12.4か月)かかると報告されています(Deardorff ら, 2022年)。
これは、薬の効果は少しずつ積み重なるものだということを示しています。ご本人の体の状態や、これからの暮らしの見通しもふまえて、治療を始めるか、どの薬を選ぶかを主治医と相談することが大切です。
■薬を続けるときに知っておきたいこと
◎飲み薬は飲み方が大切
ビスホスホネート製剤の飲み薬は、胃や食道への刺激を避け、きちんと吸収されるように、飲み方が決められています。たとえば週1回の飲み薬では、次のように定められています。
- 朝起きてすぐ、コップ1杯ほどの水で飲む
- 飲んだあと少なくとも30分は横にならず、水以外の飲食やほかの薬も控える
- 噛んだり口の中で溶かしたりしない
寝たきりに近い方や、飲み込みが難しい方では、この飲み方を守ることが難しくなります。その場合は、注射の薬など別の方法を主治医と相談しましょう。
◎歯の治療の前には、薬のことを伝える
骨粗しょう症の薬の一部では、まれに顎(あご)の骨が傷む副作用が報告されています。多くは抜歯などの歯の処置や、お口の感染に関連して起こります。
- 薬を始める前に、お口の中を確認しておく
- 普段からお口を清潔に保つ
- 歯科を受診するときは、骨粗しょう症の薬を使っていることを必ず伝える
訪問歯科を利用している方は、歯科とも情報を共有しておくと安心です。
◎デノスマブは自己判断で中断しない
半年に1回の注射で使うデノスマブは、中止すると骨を壊すはたらきが急に強まり、背骨の骨折が起こりやすくなることが報告されています。複数の背骨が続けて折れることもあります。やめる場合は、別の薬に切り替えるなど、医師が計画的に進めます。注射の予定日を過ぎてしまいそうなときは、早めに主治医に相談してください。
◎心臓や脳の病気がある方の注意
ロモソズマブの試験では、心臓や血管の重い有害事象が、比べた薬のグループよりやや多く見られました。心筋梗塞や脳卒中を起こしたことのある方では、使うかどうかを慎重に判断します。
■骨折の治療が終わっても、骨粗しょう症の治療は終わりではない
◎入院中に止まった薬、始まらなかった治療を確認する
骨折で入院すると、手術やリハビリに注目が集まり、骨粗しょう症の治療が後回しになることがあります。また、もともと飲んでいた骨粗しょう症の薬が、入院中に中断されたままになっていることもあります。
退院したら、次のことを確認してください。
- 退院時の書類(紹介状や退院サマリー)に、骨粗しょう症の治療方針が書かれているか
- お薬手帳に、骨粗しょう症の薬が入っているか
- 注射の薬を使っている場合、次の予定日はいつか
国も、骨折のあとの骨粗しょう症の治療を続けることを重視しています。2022年の診療報酬改定では、太ももの骨のつけ根の骨折のあと、骨粗しょう症の治療を継続して管理することを評価する仕組み(二次性骨折予防継続管理料)が設けられました。
◎薬だけでなく、栄養と転ばない工夫も
骨の材料になるカルシウムやたんぱく質、骨づくりを助けるビタミンDを、食事からしっかりとることも大切です。食欲が落ちている方では、食事の量そのものを保つことを優先します。
骨が強くなっても、転ぶ回数が多ければ骨折は起こります。転倒を防ぐ工夫は、高齢者の転倒を在宅医療で防ぐ|要支援から始める5つの対策で、転んだ直後の対応は、親が転んだ直後に家族がすることで解説しています。
■通院が難しくなっても、家で治療を続けられる
◎訪問診療で行えること
骨折のあと通院が難しくなると、骨粗しょう症の治療が途切れがちです。訪問診療では、ご自宅で次のようなことを行います。
- 今の薬の確認と、飲み方を守れるかどうかの見直し
- 注射の薬の種類によっては、ご自宅での注射
- 採血による腎臓のはたらきなどの確認
- 飲み込みの状態や生活に合わせた、薬の形や回数の調整
◎治療を続けるかどうかも、一緒に考える
骨粗しょう症の治療は長い期間続けることが多い治療です。一方で、体の状態が大きく変わったときには、続けることの利点と負担をあらためて考えることも必要です。先に紹介したように、効果が表れるまでには時間がかかるため、ご本人の希望やこれからの見通しもふまえて、主治医と相談しながら方針を決めていきます。
骨折のあと、寝たきりを防ぐための回復の時期ごとのポイントは、骨折は連鎖の入口|寝たきりを防ぐ3つの分岐点をあわせてお読みください。
■よくある質問
◎高齢でも骨粗しょう症の治療をする意味はありますか?
太ももの骨のつけ根を骨折した高齢の方を対象にした研究でも、治療を始めることで新たな骨折が減りました。ただし、効果が表れるまでには時間がかかり、年齢や状態によって得られる効果も変わります。ご本人の状態をふまえて、治療を始めるかどうかを一緒に考えます。
◎骨粗しょう症の薬は、いつまで続けるのですか?
薬の種類や骨の状態、骨折の危険の高さによって異なります。数年ごとに続けるか見直すことが多い薬もあれば、自己判断でやめると危険な薬もあります。やめたいと感じたときは、まず主治医にご相談ください。
◎飲み薬の飲み方を守るのが難しいです
朝の決まった時間に飲み、しばらく体を起こしておくことが難しい方は少なくありません。月1回の飲み薬や、注射の薬など、生活に合った方法がないかを相談しましょう。
◎骨折したのが背骨だけでも、治療は必要ですか?
背骨の骨折は、次の骨折の危険を高めるサインの一つです。痛みが落ち着いても、骨粗しょう症の評価と治療について主治医と相談することをおすすめします。
◎歯医者さんで薬のことを聞かれました。どうすればよいですか?
使っている骨粗しょう症の薬の名前を、お薬手帳で伝えてください。歯の処置の内容によっては、医師と歯科医師が相談して進め方を決めます。ご自身の判断で薬を止めないでください。
■参考文献
- Black DM, et al. Lancet. 1996(FIT試験, PMID: 8950879)
- McClung MR, et al. N Engl J Med. 2001(HIP試験, PMID: 11172164)
- Neer RM, et al. N Engl J Med. 2001(テリパラチド, PMID: 11346808)
- Black DM, et al. N Engl J Med. 2007(HORIZON-PFT試験, PMID: 17476007)
- Lyles KW, et al. N Engl J Med. 2007(HORIZON-RFT試験, PMID: 17878149)
- Cummings SR, et al. N Engl J Med. 2009(FREEDOM試験, PMID: 19671655)
- Saag KG, et al. N Engl J Med. 2017(ARCH試験, PMID: 28892457)
- Johansson H, et al. Osteoporos Int. 2017(PMID: 28028554)
- Cummings SR, et al. J Bone Miner Res. 2018(デノスマブ中止後の骨折, PMID: 29105841)
- Deardorff WJ, et al. JAMA Intern Med. 2022(PMID: 34807231)
- 日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・骨粗鬆症財団. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版
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院長 伊藤剛

