2026年9月30日、名古屋大学医学部附属病院の看護管理者研修にお招きいただき、「在宅復帰を支える退院支援 ― 訪問診療でできることと看護管理者の役割」と題して講演しました。退院支援と訪問診療のつながりを、病棟を預かる看護管理者の皆さまと一緒に考える時間でした。
病棟では「この方は自宅は難しいのでは」と感じる場面が少なくありません。酸素が必要、ご家族が高齢、夜間のトイレが心配。どれも大切な懸念ですが、その一言で自宅という選択肢が閉じてしまうと、ご本人の願いが検討に入らないことがあります。
今回お伝えしたかったのは、「退院後、この患者さんの一日をどこまで具体的に思い描けるか」という視点です。朝どうやって起き、誰が食卓まで支え、夜は家族が眠れるのか。一日をたどると、必要な医療と生活支援、まだ分かっていない場面が見えてきます。
この記事では、講演の内容を、訪問診療でできること、退院前の相談のしかた、退院前にそろえる6項目、看護管理者の問いかけの順にまとめました。病院で退院支援に関わる方はもちろん、ご家族の退院を控えた方にも参考にしていただければ幸いです。
目次
■退院支援と訪問診療を考える出発点|退院後の一日を思い描く
◎「家で、何ができたらうれしいですか」と聴く
最初にお伝えしたのは、在宅復帰そのものを全員の目標にしない、ということです。施設で安心して暮らすことを望む方もいます。一方で、医療処置がある、家族が高齢である、という情報だけで自宅の可能性を閉じないことも大切です。
「自宅に帰りたいですか」だけでなく、「家で何ができたらうれしいですか」と尋ねると、朝食、ペット、いつもの椅子など、その方の具体的な暮らしが見えてきます。ご家族にも、できることだけでなく、難しいことを率直に話せる機会が必要です。希望は変わるものなので、退院先を決めた後も話し合いを続けます。
◎朝・日中・夜の場面をたどる
講演では、退院後の一日を朝・日中・夜に分けて考えました。
- 朝:起きて食卓に座るまで、誰がどの動作を支えるか。薬や酸素は自分で使えるか
- 日中:何を楽しみに過ごすか。食事や入浴はどうするか
- 夜:トイレに起きたとき、誰が何回介助するか。家族は眠れるか。困ったときにどこへ連絡するか
想像だけで決めず、ご本人、ご家族、地域の支援者に確かめる。これが今回の講演を通したキーメッセージです。
■「自宅は難しい」を相談できる課題に言い換える
◎難しい理由を4つに分ける
「自宅は難しい」という判断には、いくつもの理由が重なっています。まず、それが医療の問題なのか、生活動作なのか、介護力や住環境なのかを分けてみます。
| 気になる点 | 確認すること | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 医療・症状 | 何を、どの頻度で続ける必要があるか | 主治医・訪問診療・訪問看護 |
| 生活動作 | 食事・排泄・移乗のどこに介助が必要か | 病棟看護師・リハビリ職 |
| 介護力・住環境 | 誰が、何時に、どこまで担えるか | 本人・家族・ケアマネジャー |
| サービス・費用 | 利用開始日と、支援が足りない時間 | 地域連携部門・MSW |
たとえば「奥さまが高齢なので難しい」であれば、年齢だけでなく、夜間の移乗を何回、どの程度の介助で行うのかを確認します。家族がいることと、介護を担えることは同じではありません。
◎管理者は問いを小さくする
看護管理者にできるのは、担当者の結論を責めることではなく、「一番心配なのはどのケアですか」と問いを小さくすることです。そうすると、誰に相談すればよいかがはっきりします。病状が不安定で入院治療が必要なのか、調整がまだできていないだけなのかも、分けて考えられるようになります。
■訪問診療でできること|自宅で続けられる医療
◎計画的な診療と、変化したときの対応
訪問診療は、通院が難しい方に対して計画を立てて継続的に診療する仕組みです。病気を診るだけでなく、薬を実際に飲めているか、食事や排泄に何が起きているかを生活の場で確認します。予定外に具合が悪くなったときは、相談を受けて必要性を判断し、往診や病院受診につなぎます。
ただし、医師や看護師が常に家にいるわけではありません。夜間・休日の連絡先、電話対応の範囲、往診の可否、病院との連携方法は、受け入れる医療機関ごとに確認が必要です。
◎自宅で継続できる医療の例
医療処置があることだけで、在宅療養ができないとは限りません。
| 医療の領域 | 対応の例 | 退院前の確認 |
|---|---|---|
| 診察・検査 | 診察、採血、必要に応じた心電図・超音波 | 機器・検査の範囲と結果共有 |
| 機器・処置の管理 | 在宅酸素、経管栄養、尿道カテーテル、創傷ケア | 物品、実施者、手技、交換予定 |
| 症状緩和 | 疼痛・呼吸苦などの評価、薬剤調整 | 定時薬・頓用薬と相談の目安 |
| 個別に判断する治療 | 中心静脈栄養、輸液、輸血など | 適応、実施体制、急変時対応 |
この表は、どの診療所でも同じことができるという一覧ではありません。病院での処置をそのまま自宅で再現できるとも限らないため、何のための処置かを共有し、頻度・代替方法・観察する人・異常時の連絡先まで相談します。「この処置は家でもできますか」と、退院先を決める前に具体的に聞いていただくことが大切です。
◎病院と在宅の役割分担
訪問診療が始まっても、病院との関係が終わるわけではありません。専門外来と訪問診療を併用し、病院が専門的な治療方針や検査を、在宅側が日々の状態や服薬・栄養の管理を担う、という分担もあります。併診のときは「誰が何を処方するか」「次回受診はいつか」「変化したときの連絡先はどこか」を共有しておくと、ご本人もご家族も安心できます。
■退院先が決まる前に在宅側へ相談する
◎相談時に伝えてほしい情報
在宅側への相談は、情報がすべてそろい、退院先が確定してからでなくても構いません。次の情報があると、在宅側は対応地域や必要な体制を考えやすくなります。
- 年齢・主病名・ADL・必要な処置・住所
- ご本人の希望と、ご家族が心配していること
- 退院予定と、まだ決まっていないこと
- 受け入れ先に確認したい具体的な課題
未確定のことは未確定と伝えていただければ十分です。たとえば「酸素が必要で、夜間のトイレ介助が心配です。どの条件が整えば受け入れを検討できますか」という相談の仕方があります。名古屋大学医学部附属病院には地域連携・患者相談センターがあり、院内の運用に沿って早い段階で在宅側につないでいただければと考えています。
◎ケアマネジャーと生活支援を組み立てる
生活支援を組み立てる相談相手はケアマネジャーです。病棟からは「ADL一部介助」だけでなく、トイレは一日何回で、立ち上がりと後始末のどこに介助が要るか、夜間はどうかを具体的に伝えていただけると助かります。担当がいない場合や介護保険を申請していない場合は、地域連携部門から地域包括支援センターなどへつなぎます。
◎家族が休む日も退院前から計画する
一日の暮らしを考えるときは、介護するご家族が休める日も計画に入れます。ショートステイ(短期入所)は宿泊中のケアを任せて介護者が休む選択肢で、ケアマネジャーと調整します。医療管理が必要な方にはレスパイト入院という選択肢もありますが、対象・日数・費用は受け入れ先ごとに異なるため、在宅主治医や連携窓口に確認します。ご家族が疲れ切る前に相談しておくことが大切です。
■退院前にそろえる6項目
◎引き継ぎのチェックポイント
講演では、退院前の確認を6つにまとめました。
- 本人・家族の意向:大切にしたい生活、引き受けられるケア、見直しの条件
- 医療の計画:病状、薬・処置、継続する治療、専門外来との分担
- 生活支援と初回訪問:ケアプラン、ヘルパー・通所などの開始日、医療の初回訪問
- 手技と観察:本人・家族が実際に行い、説明し返せるか
- 当日の準備:薬、物品、機器、福祉用具、移動手段の到着確認
- 困ったときの対応:昼夜の連絡先、救急要請の目安、継続が難しいときの相談先
紹介状を送ったことだけでなく、受け入れが決まっているか、初回訪問はいつかまで確認します。未調整の項目には、担当者と期限を置きます。
◎退院当日から最初の週まで
退院後は、病院で想定した生活と実際の生活にずれが生じることがあります。病院では飲めていた薬を自宅では管理できない、ベッドからトイレまでの移動が想像より大変だった、といったことです。退院当日は薬や機器がそろい使えるか、退院直後は症状だけでなく食事・排泄・家族の睡眠も確認します。地域で分かった課題が病棟に戻ってくると、次の退院支援に生かせます。
■ケースで考える退院支援|「家の窓辺で、朝ごはんを食べたい」
◎架空のケースから考える
講演では、説明のために作成した架空のケースを取り上げました。
「家の窓辺で、朝ごはんを食べたい」
80代男性。肺炎の治療後、在宅酸素を予定。移乗に一部介助が必要。妻は膝痛があり、娘は仕事のため日中の支援が難しい。
酸素がある、妻が高齢である、という情報だけでは、自宅に帰れるかどうかは決められません。病状は在宅で管理できるか、移乗は何時に何回必要か、妻はどの動作なら無理なくできるか、といった情報が必要です。
◎医療と生活支援を一緒に調整する
このケースでは、次のような調整案が考えられます。
| 暮らしの課題 | 支援の組み合わせ案 | 調整・確認する相手 |
|---|---|---|
| 酸素と体調 | 酸素の管理、機器操作、観察点、変化時の連絡先 | 主治医・在宅医・訪問看護 |
| 朝の移乗・排泄 | ヘルパーの訪問時間と、ベッド・手すりなどを検討 | ケアマネ・訪問介護・リハビリ職・用具事業者 |
| 食事・日中の生活 | 調理支援・配食・通所を本人の希望に合わせる | ケアマネ・各事業所 |
| 妻の休息・夜間 | 夜間の支援と休養日を相談。短期入所・レスパイト入院も検討 | 本人・妻・ケアマネ・在宅医・受け入れ先 |
これらは決まった計画ではなく、調整案です。夜間やサービスの合間を妻に任せきりにしないこと、ご本人と妻が納得できることを確かめて退院先を決めます。
■看護管理者の役割|カンファレンスでの問いかけ
◎管理者が尋ねる4つの問い
看護管理者がスタッフと一緒に考えるときの問いとして、次の4つを提案しました。
- 退院した翌朝、この方はどう過ごしますか
- 難しいのは、どのケア・どの時間ですか
- ケアマネ・介護事業所を含め、何を確認できましたか
- 残る調整は、誰が・いつまでに行いますか
管理者がすべてを知っている必要はありません。スタッフが迷いを話せるようにし、ご本人・ご家族や地域の専門職と一緒に具体化する機会をつくることが、病棟の退院支援の力を育てると考えています。
◎在宅が難しいときは選び直してよい
必要な調整をしても、在宅療養が難しい場合はあります。そのとき別の療養先を選ぶことは、退院支援の失敗ではありません。回復期の支援を経て自宅を再検討することもあれば、施設で安心して暮らすことが適切な場合もあります。療養先は、病状と暮らしに合わせて見直せることを、あらかじめお伝えしておくと相談しやすくなります。
■講演を終えて|名古屋で退院支援と訪問診療をつなぐ
◎「帰宅した翌朝、どう過ごしますか?」
講演の最後に、明日のカンファレンスでぜひ「帰宅した翌朝、この方はどう過ごしますか」と問いかけてみてください、とお願いしました。起きてから眠るまでの暮らしをたどり、ご本人の楽しみとご家族が休む日を支え、足りない支援を地域のチームと整える。退院支援と訪問診療は、その一日を一緒に組み立てる関係だと考えています。
貴重な機会をいただいた名古屋大学医学部附属病院の皆さま、ご参加いただいた看護管理者の皆さまに、心より感謝申し上げます。
◎退院前のご相談はお気軽に
ごうホームクリニックでは、退院先が決まる前の段階からのご相談もお受けしています。「この処置は家でも続けられるか」「夜間の連絡体制はどうなっているか」など、具体的な課題があればお問い合わせください。ご家族からのご相談も歓迎しています。
関連記事・サービスページ
- 訪問診療について訪問診療の対象・相談先を確認する
連携相談・対応可否の確認
医療機関、訪問看護ステーション、ケアマネジャーの皆様からの事前相談を受け付けています。
医療法人めぐる ごうホームクリニック
〒468-0015 愛知県名古屋市天白区原1丁目1410 サンモール原103
TEL: 052-803-5005 / FAX: 052-803-5006 / 受付: 平日 8:30〜17:30

ごうホームクリニック
院長 伊藤剛

