「在宅看取りで家族が亡くなったら、まず救急車を呼ぶのでしょうか」。訪問診療を受けているご家族から、よく寄せられる質問です。
呼吸が止まる場面を目の前にすると、事前に説明を聞いていても不安になるのは自然なことです。「救急車を呼ばなかったら問題になるのでは」「急に亡くなったら警察が来るのでは」と心配される方もいます。
実際には、救命を希望する急変と、事前に話し合った在宅看取りとでは、最初の連絡先が異なります。また、急に亡くなったという理由だけで、一律に警察の検視になるわけではありません。
この記事では、在宅看取りで亡くなったときの連絡先、救急車を呼ぶ場面、警察への届出が検討される場面、詳しい死因を知りたいときの選択肢を、ご家族向けに分かりやすくお伝えします。
目次
■在宅看取りで亡くなったら、最初にどこへ連絡する?
◎在宅看取りの方針が決まっている場合
病状が人生の最終段階にあり、ご本人・ご家族と医療チームの間で「自宅で穏やかに見送る」という方針を共有している場合は、事前に案内された訪問診療の緊急連絡先または訪問看護ステーションへ連絡してください。
医師や看護師が状況を確認し、医師がご自宅へ伺って死亡確認と死後の診察を行います。夜間や休日でも、まずどこへ電話するかを事前に確認し、電話の近くや冷蔵庫に連絡先を貼っておくと安心です。
呼吸が止まった時刻を正確に判断できなくても、それだけで慌てる必要はありません。気づいた時刻や、その前の様子を分かる範囲で医療チームへ伝えてください。

◎救命を希望する、方針が分からない場合
次のような場合は、119番へ連絡し、通信指令員の案内に従ってください。
- ご本人が救命や病院搬送を希望している
- 在宅看取りや心肺蘇生について話し合っていない
- ご家族の間で方針が共有されていない
- 事故、転倒、窒息、中毒などの可能性がある
- まだ呼吸や反応があり、救命できる可能性がある
- どうすればよいか判断できず、緊急性が高いと感じる
在宅看取りを選んでいても、気持ちは途中で変わることがあります。迷ったことを責める必要はありません。連絡できる状況であれば、訪問診療チームに電話して、現在の状態とご家族の希望を伝えてください。
■急に亡くなっても、警察の検視とは限りません
◎「突然だった」だけでは決まりません
訪問診療中の方が予想より早く、あるいは急に亡くなることはあります。しかし、亡くなるまでの時間が短かったという理由だけで、警察の検視になるわけではありません。
医師が死後に診察し、それまで診療していた病気に関連する死亡と判断でき、事故などの異状がなければ、通常は医師が死亡診断書を作成します。
厚生労働省の案内でも、死亡診断書を作るか死体検案書を作るかにかかわらず、警察への届出が必要になるのは、医師が異状を認めた場合と整理されています。
◎警察への届出が検討される場面
医師が次のような状況を確認した場合は、警察への届出が必要になることがあります。
- 転倒、事故、窒息、やけど、中毒など外からの原因が疑われる
- 自殺や他害の可能性を否定できない
- 亡くなった原因が分からない
- 病気による死亡か、外からの原因による死亡か判断できない
- 発見時の状況やご遺体の状態に不自然な点がある
届出の要否は、家族だけで決めるものではありません。医師が経過やご遺体の状態を確認したうえで判断し、必要な場合は所轄警察署へ連絡します。
◎法律ではどのように定められている?
在宅で亡くなったときに関係する主な法律は、医師法20条と21条です。
医師法20条は、医師が自ら診察せずに診断書を交付することを原則として禁止しています。そのため、在宅看取りでは担当医がご自宅へ伺い、死後の診察を行います。一方、最後の診察から24時間以内に、診療中の病気に関連して亡くなったと判断できる場合には、死後に改めて診察せず死亡診断書を交付できる例外があります。
ここで誤解されやすいのが「24時間」という言葉です。最後の診察から24時間を超えていても、医師が死後に改めて診察し、診療中の病気に関連する死亡と判断できれば、死亡診断書を作成できます。
医師法21条は、医師がご遺体を調べて異状があると認めた場合、24時間以内に所轄警察署へ届け出ることを定めています。死亡診断書か死体検案書かという書類の名前ではなく、外因や死因不明などの「異状」があるかどうかが重要です。
■救急車・訪問診療・警察は役割が違います
◎救急車は「救命と治療」のため
救急車は、命を救うための処置を行い、必要な医療機関へ搬送する仕組みです。そのため、「詳しい死因を調べてもらうために、とりあえず救急車で運ぶ」という目的とは役割が異なります。
救命を希望する場合や意思が分からない場合は119番、在宅看取りの方針が共有されている場合は訪問診療・訪問看護へ連絡する、という区別が基本になります。
◎警察の検視は「希望制の精密検査」ではありません
警察の検視は、変死やその疑いがある場合に、事件性や死亡状況などを確認する手続です。ご家族が詳しい死因を知りたいという希望だけで、自由に依頼する検査ではありません。
在宅看取りの方針あり
訪問診療・訪問看護へ連絡
救命希望・方針不明
119番へ連絡
事故・外傷・原因不明
医師が確認し、必要時に警察へ届出
■名古屋市・愛知県では、どのような対応になる?
◎救急車を呼ぶか迷ったら「#7119」
名古屋市では、救急車を呼ぶべきか、すぐ病院へ行くべきか迷ったときに、救急安心センターなごや「#7119」へ相談できます。24時間365日、看護師などが電話で状況を聞き、対応を案内します。
- 短縮番号:#7119
- 短縮番号につながらない場合:052-951-7119
ただし、意識がない、普通の呼吸をしていない、大量の出血があるなど、明らかに緊急性が高い場合は、#7119ではなく119番へ連絡してください。在宅看取りの方針が共有されている方は、原則として事前に案内された訪問診療・訪問看護の連絡先を利用します。
◎愛知県には、心肺蘇生を望まない方への救急隊ガイドラインがあります
愛知県救急業務高度化推進協議会は、人生の最終段階にあり、心肺蘇生を望まない方について、救急隊の基本的な活動ガイドラインを定めています。
名古屋市の案内では、救急隊が到着した後でも、本人の意思、ACPの実施、外因性の心肺停止ではないこと、かかりつけ医に連絡がつくこと、医師から心肺蘇生中止の指示があることなど、一定の条件をすべて満たした場合には、救急隊が処置や搬送を行わず、かかりつけ医へ引き継ぐ運用が示されています。条件を満たさない場合は、通常の心肺蘇生を続けながら医療機関へ搬送されます。
つまり、DNARの希望を書いた紙があるだけで、救急隊が直ちに蘇生を中止できるとは限りません。救急隊が本人の意思に沿って対応しやすくなるよう、かかりつけ医と事前に話し合い、家族で方針と連絡先を共有しておくことが大切です。
◎名古屋市内には監察医解剖の仕組みがあります
愛知県警察の規程では、名古屋市内を死亡地とする警察取扱死体について、必要に応じて監察医解剖と死因を明らかにする検査を行う仕組みが定められています。また、警察署長が遺族へ監察医解剖や検査結果を十分に説明することも示されています。
これは、医師が異状を認めて警察へ届け出た後の手続に関する仕組みです。ご家族が任意に申し込む一般的な検査とは異なります。
■家族が詳しい死因を知りたいとき
◎まず担当医から説明を受けます
「なぜこんなに急だったのか」「別の病気ではなかったのか」と感じるのは自然なことです。まず担当医へ、分かっている事実、医学的に考えられる原因、現時点では分からない点を確認してください。
死亡診断書に記載される死因は、担当医が診療経過と死後の所見を合わせて医学的に判断します。ただし、外からの診察だけでは、細かい原因まで確定できないこともあります。
◎病理解剖や死亡時画像診断という方法もあります
異状死に当たらなくても、より詳しい死因を知るため、病理解剖や死亡時画像診断(Ai)を検討できる場合があります。
病理解剖は、病理医が臓器や組織を詳しく調べる方法です。死亡時画像診断は、亡くなった後にCTなどで体内を調べる方法ですが、病気によっては画像だけで原因を確定できない場合があります。
どこでもすぐ実施できるものではなく、受入施設、費用、ご遺体の搬送、実施可能な時間などが地域によって異なります。希望がある場合は、できるだけ早く担当医へ相談してください。
■慌てないために、元気なうちから決めておくこと
◎「呼吸が止まったときの連絡先」まで話し合う
「できれば家で過ごしたい」という希望だけでなく、もう一歩具体的に話しておくと、いざというときの迷いが少なくなります。
- 呼吸が止まったら、最初に誰へ電話するか
- 心肺蘇生や救急搬送を希望するか
- 家族の中で主に連絡する人は誰か
- 夜間・休日の連絡先はどこか
- 原因が分からないとき、どこまで調べたいか
こうした話し合いは、一度決めたら変更できないものではありません。ご本人の状態や気持ちが変わるたびに、訪問診療チームと確認し直すことができます。
◎電話の近くに準備しておくもの
緊急連絡先のほか、保険証、服薬内容、訪問看護の連絡先、ご本人の希望を記録した文書などを一か所にまとめておくと安心です。
遠方のご家族にも方針を伝えておきましょう。その場にいる家族と、離れて暮らす家族の理解が異なると、急な場面で判断が難しくなることがあります。
■在宅看取りでよくある質問
◎最後の診察から24時間を超えると、警察が必要ですか?
24時間を超えたという理由だけで、警察への届出が必要になるわけではありません。医師が死後に改めて診察し、それまで診療していた病気に関連する死亡と判断でき、異状がなければ、死亡診断書を作成できます。
◎警察に届けるか、家族が選べますか?
警察への届出は、医師が異状の有無を確認して判断します。ご家族が詳しい死因を希望する場合は、その希望を担当医へ伝え、警察手続とは分けて病理解剖や死亡時画像診断などの選択肢を相談します。
◎救急車を呼んだ後で、在宅看取りの方針を伝えられますか?
救急隊へ、在宅療養中であること、主治医の連絡先、ご本人の意思を記録した文書があることを伝えてください。愛知県のガイドラインでは、本人の意思、ACP、外因性ではないこと、かかりつけ医からの指示など一定の条件を満たした場合に、心肺蘇生を中止してかかりつけ医へ引き継ぐ流れが示されています。条件を満たさなければ、原則として心肺蘇生を続けながら搬送されます。
◎家族の気持ちが変わってもよいのでしょうか?
気持ちが揺れるのは自然なことです。在宅看取りは、途中で変更できない契約ではありません。迷いが生じた時点で訪問診療チームへ伝え、ご本人にとって何がよいかを一緒に考えましょう。
◎名古屋で在宅看取りを考えているご家族へ
在宅看取りで最も大切なのは、すべてをご家族だけで判断しようとしないことです。呼吸が変わった、反応がなくなった、どうすればよいか分からない。その段階で、訪問診療や訪問看護へ連絡してください。
ごうホームクリニックでは、患者さんとご家族の希望を伺いながら、急変時や最期のときの連絡方法についても事前に話し合います。「まだ決められない」「家族の意見がまとまらない」という段階でもご相談いただけます。
なお、この記事は一般的な情報をお伝えするもので、個別の死亡診断や警察届出の要否は、実際の経過と所見に基づいて担当医が判断します。
■参考にした公的資料
- 厚生労働省「死亡診断書(死体検案書)について」
- 厚生労働省「令和8年度版 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」
- e-Gov法令検索「医師法」
- 総務省消防庁「令和6年版消防白書―救急業務高度化の推進」
- 厚生労働省「人生会議ポータルサイト」
- 日本病理学会「病理解剖の実際についてQ&A」
- 名古屋市「救急安心センターなごや #7119」
- 名古屋市「人生の最終段階にあり心肺蘇生を望まない心肺停止傷病者への救急隊の対応」
- 愛知県警察「監察医解剖に係る死体の検査要領」
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院長 伊藤剛

