「夜中の2時に、父が『会社に行かなきゃ』と玄関で靴を履いている」「止めようとすると、怒って手を振り払われる」。認知症のご家族を介護している方から、夜の徘徊や興奮についてのご相談をよく受けます。
夜に起こるこうした症状は、介護する家族の睡眠を奪い、在宅での介護を続けるうえで最もつらいことの一つです。何日も続くと、家族のほうが先に限界を迎えてしまいます。
けれども、夜の徘徊や興奮には、多くの場合なんらかの理由があります。便秘や痛み、トイレの不快感、脱水、薬の影響など、体の不調が引き金になっていることは珍しくありません。理由が見つかれば、症状が落ち着くこともあります。
この記事では、名古屋で訪問診療を行うごうホームクリニックが、認知症の方の夜間の徘徊や興奮に家族が今夜からできる対応、その裏に隠れた原因の見つけ方、救急車を呼ぶ目安と主治医への連絡のしかた、そして家族が休むための方法をお伝えします。
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目次
■夜の徘徊や興奮が起きたとき、まず家族の安全を守る
◎危ないときは、いったん離れてよい
本人が強く興奮して、叩く、物を投げるといった状態のときは、無理に押さえようとしないでください。押さえつけると、かえって興奮が強くなり、本人も家族もけがをするおそれがあります。
- 危険を感じたら、いったん別の部屋に離れる
- 包丁やハサミ、火の元など、危ない物を手の届かない所へ移す
- 玄関や窓から外に出てしまわないかを確認する
家族の安全は、本人の安全と同じくらい大切です。

◎外に出ようとするときは、止めるより付き添う
「どこへ行くの」「今は夜だから」と止めると、本人には行く理由があるため、言い争いになりがちです。危なくなければ、上着を着せて一緒に家の周りを少し歩く、玄関先までついて行く、といった付き添い方のほうが、早く落ち着くことがあります。
■今夜からできる声かけと環境の整え方
◎声かけのコツ
- 正面から、目の高さを合わせて話しかける
- 低めの落ち着いた声で、短い言葉で伝える
- 本人の言うことを否定しない(「会社はもうないでしょう」ではなく「お仕事、大変だったね。少しお茶を飲んでからにしようか」)
- 一度にいくつも話しかけない
本人の世界では、それが本当のことです。正しさを説明するより、気持ちに寄り添うほうが落ち着きやすくなります。
◎気持ちを切り替えるきっかけをつくる
- 温かい飲み物を一緒に飲む
- トイレに誘う
- 好きな音楽をかける、昔の写真を一緒に見る
- 本人が嫌がらなければ、手を握る、背中をさする
◎夜の環境を見直す
- 真っ暗にせず、足元を照らす小さな明かりをつける(トイレまでの通り道も)
- 部屋が暑すぎたり寒すぎたりしないようにする
- テレビの音や外の物音など、刺激になる音を減らす
- 目が覚めたときに見える所に、見慣れた物を置いておく
◎昼の過ごし方が、夜の眠りを左右する
夜に眠れない原因が、昼にあることもよくあります。昼寝が長すぎる、日中ほとんど体を動かしていない、日の光を浴びていない、といった生活です。午前中に日の光を浴びる、デイサービスなどで日中に活動する時間をつくる、昼寝は短めにする、といった工夫で、夜の眠りが整ってくることがあります。
■夜の徘徊・興奮の裏に隠れていることが多い原因
◎体の不調を探す
認知症の方は、つらさや痛みを言葉でうまく伝えられないことがあります。その不快感が、歩き回る、怒る、落ち着かないといった行動として表れることがあります。
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| 便秘 | 最後に便が出たのはいつか、お腹が張っていないか |
| おしっこ | 最後に出たのはいつか、出にくそう・下腹部が張っていないか、尿のにおいが強くないか |
| 脱水 | 飲んだ量が減っていないか、口や舌が乾いていないか |
| 痛み | 顔をしかめる、特定の場所を触る・かばう(歯、腰、足、床ずれなど) |
| 熱・感染症 | 熱、咳、皮膚の赤みや腫れ |
| 薬 | 最近、新しく始めた薬や量を増やした薬がないか |
◎急に始まった・急にひどくなったときは「せん妄」も疑う
数日のうちに急に様子が変わった、昼間もぼんやりしている、つじつまの合わないことを言う時間とはっきりしている時間がある。このようなときは、体の病気や薬の影響で一時的に意識が乱れる「せん妄」のことがあります。せん妄は、原因となる体の不調を治療することで改善することが多い状態です。いつもの認知症の症状と決めつけず、早めに主治医に相談してください。
◎睡眠薬や安定剤が、かえって混乱を招くこともある
眠れないからと睡眠薬や安定剤を増やしたところ、夜にかえって混乱した、ふらついて転んだ、ということがあります。薬の種類や量が合っていないこともあるので、薬を増やしたあとに様子が変わったときは、主治医に伝えてください。自己判断で薬を増やしたり、やめたりはしないでください。
■よくある2つのケース
ここで、よくある状況を2つ紹介します(個人が特定されないよう、複数の例をもとに再構成しています)。
ケース1:夜中に「会社に行く」と歩き回る父 80代の男性。ある夜、急に起き出して「会社に行かなきゃ」と玄関で靴を履こうとし、止める妻の言うことを聞かずに歩き回りました。電話で状況を聞くと、夕食のあとから何時間もおしっこが出ていないことがわかりました。尿が出にくくなっていたことへの対応をしたところ、しばらくして落ち着き、そのまま眠りました。夜の突然の徘徊では、トイレや排せつのトラブルがないかを必ず確認します。
ケース2:睡眠薬を増やしたあとに興奮が強くなった母 70代の女性。「誰かが家に入ってくる」と興奮して、娘を叩いてしまいました。話を聞くと、数日前から便が出ていないこと、前の日に睡眠薬を増やしていたことがわかりました。便秘への対応をし、睡眠薬を元の量に戻したところ、翌日には落ち着きを取り戻しました。興奮を抑える薬を足すより先に、体の不調や薬の影響を探すことが大切です。
■救急車を呼ぶ目安と、主治医への連絡のしかた
◎すぐに救急車を呼ぶとき
- 呼びかけに反応しない、意識がおかしい
- 息が苦しそう、胸の痛みを訴える
- けいれんが続いている
- 転んで頭を強く打った、骨折が疑われる、大量に出血している
119番に電話するときは、認知症があることも伝えてください。お薬手帳を用意しておくと、救急隊や病院に薬の情報をすぐ伝えられます。転んだときの対応は、親が転んだ直後に家族がすることで詳しく解説しています。
◎刃物を持ち出す、ベランダに登るなど、身の危険があるとき
本人が刃物を持ち出して家族の身が危ない、ベランダに登って転落しそうになっている、といった場面は、救急車ではなく、警察の協力が必要になることがある状況です。
- まず本人から離れ、家族自身の安全を確保する
- 主治医に連絡し、状況を伝えて、警察に介入を求めるかどうかの指示を仰ぐ
主治医と連絡がつかず、命に関わる危険が目の前に迫っているときは、ためらわずに110番に通報してください。そのときも、認知症があることを伝えてください。
◎まず主治医や訪問看護に連絡するとき
- 興奮や徘徊は続いているが、意識ははっきりしていて、呼吸も落ち着いている
- 少し熱があるが、意識は普段どおり
- 家族が疲れ切っているが、数時間なら見守れる
救急車を呼ぶか迷うときは、救急安心センター(#7119)でも相談できます。
◎連絡するときに伝えてほしいこと
| 伝えること | 例 |
|---|---|
| 今、何が起きているか | 夜中から歩き回っていて、止めると怒る |
| いつから、普段と何が違うか | 昨日の夜から。こんなに続くのは初めて |
| 気づいたこと | 3日便が出ていない、夕方から尿が出ていない、熱は37.2度 |
| 家族の状態とお願いしたいこと | 2晩ほとんど寝ていない。往診してほしい |
当院では24時間連絡を受けられる体制をとり、必要に応じて往診で対応します。日ごろから、夜間の連絡先と、どんなときに誰へ連絡するかを、主治医・訪問看護・ケアマネジャーと決めておくと、夜中に迷わずにすみます。
◎興奮を抑える薬は、慎重に使う
興奮が強く、介護を続けられないほど困っているときは、症状を和らげる薬を使うことがあります。ただし、高齢の認知症の方では、こうした薬で転倒や誤嚥、眠気が強く出ることがあり、命に関わる副作用が増えることも知られています。特にレビー小体型認知症の方は、薬に敏感で副作用が出やすいことがあります。当院では、まず原因を探し、環境や関わり方を工夫したうえで、必要な場合に限って少量から使い、効果と副作用を見ながら調整します。
■家族が倒れないために、休む方法を準備しておく
◎夜の介護が続いて限界になる前に
夜の徘徊や興奮が何日も続くと、家族は眠れず、心も体も追い詰められます。医学的には家で過ごせる状態でも、家族が限界のときは、休むことを優先してよいのです。家族が一時的に介護から離れることが、結果として在宅での生活を長く続けることにつながります。
◎使えるサービス
- ショートステイ:数日〜1週間ほど施設に泊まる。急な利用ができる場合もあるので、ケアマネジャーに相談を
- デイサービス:日中に活動して、夜の眠りを整える助けにもなる
- 夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護:夜間に介護職が訪問するサービス(地域によって利用できる事業所が異なります)
- 訪問看護:夜間の連絡体制があるステーションもある
◎外に出てしまうことへの備え
ひとりで外に出て、帰り道がわからなくなることへの備えも大切です。玄関のセンサーやチャイム、衣服や持ち物への連絡先の記入、GPS端末などがあります。また、多くの市区町村で、行方不明になったときに地域で探す見守りの仕組みや、事前登録の制度が設けられています。お住まいの地域包括支援センターに尋ねてみてください。
介護する家族自身のつらさについては、認知症の介護疲れから家族を守るで、認知症の方を家で診る訪問診療については、認知症の訪問診療|通院が難しくなったら家で診てもらえる?で解説しています。
■よくある質問
◎夜中に外へ出ようとするのを、鍵をかけて防いでもよいですか?
外に出て事故にあう危険を防ぐために、玄関の鍵やセンサーを工夫することは大切です。ただ、閉じ込められたと感じると、かえって興奮することもあります。止めることだけでなく、なぜ外に出たいのか、そのとき何を求めているのかにも目を向けると、対応の糸口が見つかることがあります。
◎睡眠薬を使えば、夜はぐっすり眠れるようになりますか?
眠れるようになる方もいますが、高齢の方では、翌日まで眠気が残る、夜中にふらついて転ぶ、かえって混乱するといった副作用が出ることがあります。まずは昼の過ごし方や夜の環境、体の不調を見直し、薬は主治医と相談しながら慎重に使います。
◎夜の徘徊は、認知症が進んだということですか?
認知症の進行が関係していることもありますが、便秘や痛み、薬の影響などの体の不調が引き金になっていることも少なくありません。急に始まった場合は特に、体の不調が隠れていないかを確認することが大切です。
◎夜中に主治医へ電話するのは気が引けます
夜間の連絡は、そのためにある体制です。迷ったときに相談していただくことで、救急車が必要かどうか、朝まで待てるかどうかを一緒に判断できます。遠慮なくご連絡ください。
◎家族が眠れない日が続いています。どうしたらよいですか?
まずはケアマネジャーや主治医に、今の状況を伝えてください。ショートステイや夜間のサービス、薬の見直しなど、取れる手はいくつもあります。家族が休むことは、わがままではありません。
まずは状況をお聞かせください
訪問診療の対象か分からない段階でも大丈夫です。通院のしづらさや介護状況を確認します。
ごうホームクリニック
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ごうホームクリニック
院長 伊藤剛

