「インフルエンザのワクチンは受けます。でも、コロナワクチンはもういいかな」。診療の現場で、そんな言葉を聞くことがあります。
以前ほどニュースで見かけなくなり、日常も戻りました。「もう終わった病気」と感じるのは無理もありません。一方で、高齢の方にとって、新型コロナは今も命や暮らしに影響する感染症です。
ただ、「受けたほうがよい」と伝えるだけでは、接種を決められない事情があります。インフルエンザより高い自己負担、前回の発熱やだるさ、何度も接種することへの迷い。どれも、診察室で一緒に考えたい大切なことです。
この記事では、死亡統計とワクチンの効果を確認し、2026年度の名古屋市の自己負担や免除制度も紹介します。ご本人とご家族が、接種するかどうかを納得して相談するための材料としてお読みください。制度・資料の確認日は2026年10月11日です。
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ごうホームクリニックでは在宅医療・介護の知識をpodcastで配信しています。「ワクチンが不安」という気持ちを聞き、本人が決めるための説明を考える関連podcastです。コロナワクチンに限定した回ではありません。
目次
■コロナワクチンを迷う前に知っておきたい、今も続く感染
◎「話題にならない」と「感染がなくなった」は別のこと
新型コロナは、5類感染症への移行後も流行を繰り返しています。日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会は、2026年9月の見解で、高齢者に対する秋の定期接種を推奨しています。過去に感染した方でも再感染があり、以前の接種だけで今後も十分に守られるとは限りません。3学会の2026年度の見解
東京都の2026年第40週(9月28日〜10月4日)の週報では、新型コロナの定点医療機関当たりの報告数は1.76人で、前週の1.28人から増えています。ただし、その前の第38週は2.91人でした。直近の1週間の増加だけで「ずっと増え続けている」とは言えません。同じ第40週のインフルエンザは15.87人で、注意報レベルが続いています。東京都感染症週報・第40週、4頁
これらは決められた医療機関からの報告であり、地域の感染者全員の数ではありません。流行の強さは地域や週によって変わります。「今は報道が少ないから大丈夫」と決めず、住んでいる地域の情報も確認しましょう。

■2025年のコロナによる死亡は2万人超。数字をどう受け止めるか
◎インフルエンザとの比較は、同じ年・同じ統計で
厚生労働省が人口動態統計をまとめた資料では、2025年の死亡数は次のとおりです。いずれも、この資料に掲載された概数です。厚生労働省・年間死亡者数の推移、5頁
| 死因 | 2025年の年間死亡数(概数) |
|---|---|
| 新型コロナウイルス感染症 | 21,497人 |
| インフルエンザ | 6,838人 |
新型コロナによる死亡数は、インフルエンザの約3.1倍です。これは、死亡診断書などに基づいて「死亡をもたらした一連の原因の出発点となる病気(原死因)」を分類した数字で、検査が陽性だった方の死亡をすべて数えたものではありません。
一方、この表だけで「感染した一人ひとりの死亡リスクが3.1倍」とは言えません。感染した人数、年齢、持病、接種歴などが違うためです。また、2万1千人すべての死亡をワクチンで防げる、という意味でもありません。
◎とくに高齢の方の問題として考える
厚生労働省は、この死亡の約98%を65歳以上、約81%を80歳以上が占めると説明しています。「コロナは終わった」と一括りにすることで、重症化しやすい方の備えまで止まってしまうことを、私たちは心配しています。厚生労働省・新型コロナワクチンの効果
在宅療養では、命を守ることに加え、普段の生活を続けられることも大切です。肺炎や入院を避ける意味を、その方の体力や介護の状況と合わせて考える必要があります。
■追加接種で期待するのは、入院や重症化を減らすこと
◎国内の研究でも、入院を減らす効果が報告されています
国内の多施設で行われたVERSUS研究では、2024年10月〜2025年4月の60歳以上について、そのシーズンのJN.1対応ワクチンを接種した群は、接種していない群に比べ、コロナによる入院に対する有効率が61.8%と推定されました。統計上の推定幅(95%信頼区間)は21.5〜81.4%です。原著論文・Vaccine誌
これは「接種した人の61.8%が絶対に入院しない」という意味ではなく、比較した群の間で入院の起こりやすさがどれだけ低かったかを示す数字です。観察研究であり、患者さんの背景などの影響を完全には取り除けません。また、過去のシーズンの結果を、今年の製剤や一人ひとりの効果として保証することもできません。
翌年の春〜夏を調べた同研究でも、60歳以上の入院予防効果が報告されています。ただし、対象数が限られ推定幅が広いことや、接種歴が主に本人・家族の申告によることなど、研究上の限界も記載されています。長崎大学・VERSUS研究報告
◎「以前打ったから十分か」を、今年の体調で考える
接種後の予防効果は時間とともに変わり、ウイルスも変異します。3学会は、高齢者には流行株に合わせたワクチンの接種を勧めています。3学会の見解
高齢であること、持病や免疫を抑える治療があること、介護を受けながら生活していることなどを、主治医に伝えてください。接種による利益がどれくらい期待できるかは、年齢だけでなく、こうした条件やご本人の療養の目標によっても変わります。
■インフルエンザより高い自己負担は、無視できません
◎名古屋市では、コロナ7,700円、インフルエンザ1,500円
2026年度の名古屋市の高齢者定期接種では、通常の自己負担額はコロナワクチンが7,700円、インフルエンザワクチンが1,500円です。コロナはインフルエンザより6,200円高く、約5.1倍の負担になります。免除対象の方は、この金額とは異なります。名古屋市・コロナワクチン/名古屋市・インフルエンザワクチン
たとえば名古屋市で、免除のないご夫婦が2人とも両方のワクチンを受けると、合計18,400円です。年金など決まった収入の中で暮らす世帯にとって、簡単に出せる金額とは限りません。「高いから迷う」という声を、健康への関心が低いからだと受け止めるべきではないと思います。
また、自己負担額は、そのワクチンの必要性をそのまま表すものではありません。病気のリスクをどう減らせるかと、今の家計で支払えるかは、どちらも別々に確認する必要があります。
◎無料接種から制度が変わっています
新型コロナワクチンを全額公費で受けられた制度は、2024年3月31日に終了しました。現在は対象者・接種期間・自治体の助成によって負担が変わります。定期接種の対象外で接種を希望する場合は、原則として任意接種となります。厚生労働省・新型コロナワクチンQ&A
■費用で諦める前に、免除と接種期間を確認しましょう
◎「持病がある60歳以上」すべてが定期接種の対象ではありません
定期接種の対象は、原則65歳以上の方と、60〜64歳で一定の重い機能障害がある方です。後者は、心臓・腎臓・呼吸器の機能障害、またはHIVによる免疫機能障害についての要件があり、高血圧や糖尿病などの持病があるだけで一律に対象になるわけではありません。厚生労働省・定期接種の対象者
名古屋市のコロナの実施期間は2026年10月1日〜2027年3月31日です。ただし、愛知県内の市外協力医療機関では10月15日からで、事前申請が必要です。対象外・期間外の接種は全額自己負担となるため、予約時に確認してください。名古屋市の案内
◎名古屋市では、市民税非課税世帯などに免除があります
名古屋市は、定期接種の対象者のうち、生活保護世帯、市民税非課税世帯、中国残留邦人等の支援給付の受給者について、必要書類の提出による自己負担の免除を設けています。名古屋市・免除制度
名古屋市では、書類を接種後に出しても返金されません。「年金生活だから自動的に無料」とも限らないため、接種前に確認することが大切です。必要書類が分からない場合は、保健センターや接種する医療機関へ相談してください。
■副反応がつらかった方にも、相談できる選択肢があります
◎つらかった経験を、そのまま伝えてください
接種後の腕の痛み、発熱、だるさなどは、生活や介護に影響します。前回の症状、どのくらい続いたか、受診が必要だったかを伝えてください。まれな重い副反応としてアナフィラキシーがあり、心筋炎・心膜炎への注意も必要です。効果だけでなく副反応も含めて相談することが大切です。厚生労働省・ワクチンQ&A
発熱中や重い急性の病気があるとき、過去に成分に対する重いアレルギーがあったときなどは、接種を見合わせる必要があります。体調に不安があれば、予約日よりも体調の確認を優先してください。厚生労働省・接種を受けられない方
◎2026年度は5製剤、3つの方式があります
厚生労働省の資料では、2026年度の定期接種に向けて、5社のワクチンが薬事承認を取得しています。製造方法は、mRNA、組換えタンパク質、自己増幅型mRNAの3種類です。厚生労働省・令和8年度新型コロナワクチンの開発状況
- コミナティ(ファイザー):mRNA、XFG対応
- エムネクススパイク(モデルナ・ジャパン):mRNA、XFG対応
- ダイチロナ(第一三共):mRNA、NB.1.8.1対応
- ヌバキソビッド(武田薬品工業):組換えタンパク質、XFG対応
- コスタイベ(Meiji Seika ファルマ):自己増幅型mRNA、NB.1.8.1対応
mRNAワクチンは、ウイルスの目印となるタンパク質の設計図を届ける方式です。組換えタンパク質ワクチンは、あらかじめ作ったタンパク質を抗原として用います。自己増幅型mRNAワクチンは、細胞内で設計図が一時的に複製される仕組みを持ち、「レプリコンワクチン」とも呼ばれます。
方式や抗原組成の違いだけで、どれが一律に優れているとは決められません。年齢、持病、過去の接種歴、副反応の経験などを踏まえて検討します。
◎希望する製剤があるときは、予約前に確認を
医療機関によって、取り扱う製剤や在庫は異なります。希望する製剤がある場合は、予約前に名称を伝えて確認してください。mRNA以外なら副反応が起こらない、誰にでも適している、とは言えません。方式への不安や前回の副反応も相談し、製剤と接種時期を検討しましょう。厚生労働省・ワクチンQ&A
■「どちらか一つしか受けられない」ときは、費用も含めて相談を
◎死亡数の比較だけで、一律に優先順位は決められません
高齢の方にとって、コロナもインフルエンザも備えたい感染症です。死亡数の表だけを根拠に「全員が必ずコロナを優先」と決めるのではなく、年齢、持病、これまでの接種・感染、地域の流行、副反応の経験を合わせて判断します。
インフルエンザとの同時接種は、医師が必要と認めた場合に可能です。別々に受ける場合も、両ワクチンの間隔に一律の制限はありません。通院や付き添いの負担がある方は、同時接種の可否も相談できます。名古屋市・インフルエンザ予防接種の案内
相談の際は、次の3つを伝えていただければ十分です。
- 前回いつ接種したか、最近コロナにかかったことがあるか。
- 前回の副反応と、現在の持病・治療・体調で心配なこと。
- 費用や通院が負担になっていること、免除の対象か分からないこと。
接種を受けるかどうかは、ご本人の意思を尊重して決めるものです。ご家族だけで結論を急がず、本人が気にしていることも聞きながら、主治医と相談していただきたいと思います。
■高齢者の予防を「個人の努力」だけにしないために
◎必要性を伝えることと、受けられる環境を整えること
「コロナはもういいかな」という言葉の背景には、病気の危険性を感じにくくなったことだけでなく、費用や副反応への不安があるかもしれません。接種を勧める医療者には、その理由を聞き、制度を案内し、一緒に考える役割があります。
私は、高齢者の感染症予防を、社会として支える必要があると考えています。本人が望む接種を、支払いの難しさだけで断念しなくてよい仕組みが必要です。とくに重症化リスクの高い方への負担軽減や、免除制度の分かりやすい案内は、検討を進めたい課題です。
予防によって医療・介護の支出がどれだけ減るかは、別途検証が必要です。それでも、入院や重症化を減らし、住み慣れた場所での暮らしを守ることは、社会が支える価値のある目標だと思います。
コロナは、今も高齢者の健康を脅かしています。「もういいかな」と感じたときこそ、今年の体調と、接種で期待できる利益、費用や副反応の負担を一緒に見直してみませんか。受けるかどうかを迷っている段階から、かかりつけ医にご相談ください。
まずは状況をお聞かせください
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