大きな地震や台風で電気・ガス・水道が止まったとき、ご自宅で療養されている方のお食事をどうするか。訪問診療でご家庭にうかがっていると、ご家族から「そのときになったら何を食べさせればいいのか分からない」というお話をよく聞きます。
備蓄の乾パンやレトルトだけでは、噛む力や飲み込む力が弱くなっている方、糖尿病や腎臓病で食事の調整が必要な方には合わないことがあります。かといって、断水中に鍋やお皿を洗いながら調理するのは現実的ではありません。
そこで注目されているのが、災害時に役立つ「パッククッキング」です。食品用のポリ袋に材料を入れ、鍋のお湯で湯せんするだけという調理法で、水も燃料も少なく済み、洗い物もほとんど出ません。
2026年9月14日、ごうホームクリニックの管理栄養士と職員で、このパッククッキングを実際に試作しました。この記事では、白ご飯・蒸しパン・アルファ化米の野菜ジュースご飯を作った記録を、成功した点も失敗した点もそのままお伝えします。
目次
■災害時のパッククッキングとは|ポリ袋と鍋ひとつで作る調理法
◎袋に材料を入れて、鍋のお湯で湯せんするだけ
パッククッキングは、食品用の高密度ポリエチレン袋(半透明で、カシャカシャと音がするタイプの耐熱ポリ袋)に材料を入れて口を縛り、鍋で沸かしたお湯に入れて加熱する調理法です。
袋の中で調理が完結するため、次のような利点があります。
- 鍋のお湯は汚れないので、同じお湯を何度も使える
- 鍋やお皿を洗う水がいらない(袋のまま器に入れて食べられる)
- ひとつの鍋で、ご飯と蒸しパンなど別の料理を同時に作れる
- 使うのはカセットコンロと鍋だけで、電気も水道も止まっていて構わない
ふだんの調理
鍋・炊飯器・食器を使い、調理にも後片づけにも水が必要。停電・断水では作れない。
パッククッキング
ポリ袋とカセットコンロがあれば調理できる。湯せんのお湯は繰り返し使え、洗い物が出ない。
◎在宅療養中のご家庭にこそ知っておいてほしい理由
災害時のパッククッキングは、在宅で療養されている方のいるご家庭ととくに相性が良い方法だと考えています。
理由のひとつは、水加減を変えるだけで硬さを調整できることです。今回の試作でも、同じ米と同じ湯せん時間で「硬めのご飯」と「軟飯」を作り分けられました。飲み込む力が落ちている方には軟飯、食欲のある方には普通の硬さ、と一度の加熱で家族それぞれに合わせられます。
もうひとつは、衛生面です。袋の中で調理が完結し、そのまま器に入れて食べられるため、断水中でも食器を洗わずに済みます。感染症が広がりやすい避難生活で、これは大きな安心につながります。
■クリニックで実際に試作してみました
◎2026年9月14日、管理栄養士と職員で
試作は2026年9月14日(月)の午後、クリニックの一室で行いました。参加したのは管理栄養士2名、介護支援専門員1名と、試食に協力した職員です。
作ったのは次の3品です。
- 白ご飯(1人分・2人分)
- 蒸しパン
- アルファ化米を使った野菜ジュースご飯

◎用意したのはカセットコンロと鍋、そしてポリ袋
特別な道具は使っていません。カセットコンロとボンベ、深めの鍋、食品用の高密度ポリエチレン袋、使い捨て手袋、ラップ、消毒用アルコール、計量用のスケール。これだけです。
食材も、米・ホットケーキミックス・卵・牛乳・水という、どのご家庭にもあるものばかりです。
まとめると、今回の結果は次のようになりました。
| メニュー | 加熱時間 | 仕上がり | 冷めた後 |
|---|---|---|---|
| 白ご飯(1人分) | 中火で30分 | 芯はなく、やや硬めに炊けた | 変化なし |
| 白ご飯(2人分) | 中火で30分+10分(計40分) | 芯はなく、軟飯くらいの柔らかさ | 変化なし |
| 蒸しパン(1袋4人分) | 中火で30分 | よく膨らんだ。ただしパサつきあり | 大きな変化なし |
| 野菜ジュースご飯 | 規定時間+10分延長 | 米に芯が残り、食感が悪い | - |
■白ご飯|湯せん30分で、芯のないご飯が炊けました
◎1人分は30分、2人分は40分
袋に米と水を入れて空気を抜き、口を縛って鍋へ。突沸しない程度の中火で30分加熱しました。
1人分は30分でしっかり火が通り、芯のないご飯になりました。仕上がりはやや硬めです。2人分は30分では足りず、追加で10分、合計40分の加熱が必要でした。こちらは軟飯に近い柔らかさになりました。

同じ袋・同じ火加減でも、量が増えれば中心まで熱が伝わるのに時間がかかります。ご家庭で作られるときは、人数分をまとめて1袋にせず、1人分ずつ小分けにするほうが失敗が少ないと感じました。

◎水加減で「硬め」と「軟飯」を作り分けられる
今回の試作でいちばんの収穫は、水の量と加熱時間で硬さを調整できると確かめられたことです。
試食した職員からは、軟飯について「消化が良く、体調がすぐれないときや食欲がないとき、高齢の方でも喉越し良く食べられる硬さ」という声がありました。塩を入れていないのに、お米の甘みを感じられたという感想も複数ありました。
冷めた状態でも味は落ちず、時間が経っても品質は保たれていました。作り置きして、あとから食べていただくこともできそうです。
■蒸しパン|袋の中で混ぜて30分、ふっくら膨らみました
◎材料はホットケーキミックスと卵、牛乳だけ
蒸しパンは、袋の中にホットケーキミックス・卵・牛乳を入れ、袋の外から揉んで混ぜ、そのまま30分湯せんしました。1袋で4人分です。
膨らみ方は良好で、切ってみるときめ細かく、しっかり火が通っていました。試食した職員からは「お湯と袋で作ったとは思えないクオリティ」「非常時でもほんのり甘いものが食べられるのは心がホッとする」という声が上がりました。

◎油脂を入れないとパサつきます
一方で、改善点も見つかりました。今回はサラダ油などの油脂を一切入れなかったため、食べたときに口の中の水分を持っていかれるような、パサつきと硬さがありました。
飲み込む力が弱くなっている方には、このパサつきは負担になります。飲み物と一緒に召し上がっていただくか、レシピ側で油分を足す必要があります。次回の試作では、サラダ油やチョコレートを加えてしっとり感を出せないか確かめる予定です。
なお当初は甘納豆を入れる予定でしたが、少量での購入が難しく、今回は使いませんでした。
◎袋の角で卵を潰しておくと混ざりやすい
作業中に見つけた工夫もあります。卵を袋に入れた直後、袋の角(すみ)を使って先に卵を潰しておくと、後から加える牛乳やホットケーキミックスとの混ざり具合が大きく改善しました。
袋の中身は目で見ながら混ぜられないので、こうした小さなコツが仕上がりを左右します。
■アルファ化米の野菜ジュースご飯|うまくいかなかった一品
◎常温の野菜ジュース+冷水では芯が残りました
3品目は、備蓄でよく使われる市販のアルファ化米を、水ではなく野菜ジュースで戻すという試みです。野菜が不足しがちな災害時に、主食から野菜を摂れないかという発想でした。
常温の野菜ジュースと冷水を規定量入れ、規定時間放置。しかし米に芯が残り、食感が良くありませんでした。水分を100ml追加して10分延長しても、改善しませんでした。

◎本番は「お湯」で戻す手順に変更します
原因は温度だと考えています。アルファ化米は本来お湯で戻すことを想定した食品で、常温の液体では戻りきらなかったということです。
味そのものは良く、試食した職員からは「トマトや人参の酸味・風味がしっかり感じられた」「塩やこしょう、ケチャップやコーンを足せばリゾット風になりそう」という声がありました。発想としては悪くないので、次回は「常温の野菜ジュース+お湯」で戻す手順に変更して再挑戦します。
うまくいかなかったことも、事前に分かったからこそ本番で避けられます。試作をした意味はここにありました。
■試作でわかった3つのコツ
◎空気抜きは「水を張ったボウル」を使う
袋の空気が残っていると、熱が均一に伝わらず、袋も浮いてしまいます。今回いちばん役に立ったのが、水を張ったボウルを用意し、材料を入れた袋をそこに沈めながら口を縛る方法です。
水圧で袋の中の空気が自然に押し出され、手で押し出すよりもきれいに、早く脱気できました。

◎火加減は「突沸しない程度の中火」
強火にすると鍋の中で袋が跳ね、鍋肌に触れて破れるおそれがあります。かといって弱すぎると火が通りません。
今回は「突沸しない程度の中火」を保つことで、どのメニューも安定して仕上がりました。ぐらぐら沸騰させるのではなく、静かに湯気が上がっている状態を維持するイメージです。
◎袋を鍋底に直接触れさせない
鍋底は直接火が当たるため、袋が触れたままだと溶けたり破れたりします。鍋の底に耐熱の皿を敷くなどして、袋が直接触れないようにしてください。

■試食した職員の感想
◎白ご飯について
- 湯せんで作ったとは思えないほどしっかり火が通っていて、とても美味しかった
- 硬めのご飯もパサつきや芯がなく、ふっくらしていた
- 軟飯は消化が良く、高齢の方でも喉越し良く安心して食べられる硬さ
- 塩を入れていないのにお米の甘みを感じられた
- 冷めた状態でも美味しくいただけた
◎蒸しパンについて
- ふっくらもちもちしていて、お湯と袋で作ったとは思えない
- 非常時でもほんのり甘いものが食べられるのは心がホッとする。子どもも喜びそう
- 油脂が入っていないぶん、やや水分を持っていかれる感じがあった
- 卵や牛乳がない状況も想定して、手持ちの代替品で作れるレシピもあると役立つ

◎全体を通して
- ポリ袋と湯せんで、同時に異なる料理が作れる手軽さに驚いた。災害食の常識が変わった
- 特別な非常食だけでなく、家庭にある食材とポリ袋で作れる知識は心強い。家でも試したい
- 袋の中で調理が完結する点は、災害時の衛生面・節水面でとても現実的
- 災害時だからこそ、海苔を星形に抜いたりメッセージを書いたりして、少しでもホッとできる工夫があると嬉しい
最後の意見は、私たちにとって印象的でした。災害時の食事は、栄養を満たすだけのものではありません。温かいものを食べる、甘いものを食べるという体験そのものが、心を支えます。
■ご家庭で備えるときのポイント
◎そろえておきたい道具
今日からでも備えられるものばかりです。
- 食品用の高密度ポリエチレン袋(耐熱性のもの。必ず「湯せん可」の表示を確認してください)
- カセットコンロとカセットボンベ(ボンベの残量と使用期限を定期的に確認)
- 深めの鍋
- 鍋底に敷く耐熱の皿
- 使い捨て手袋、ラップ、消毒用アルコール
- 米、ホットケーキミックス、アルファ化米などの乾物

◎安全に行うための注意点
- ポリ袋は必ず食品用・耐熱性のものを使ってください。一般的なレジ袋やゴミ袋は使えません
- カセットコンロは必ず換気をしながら使ってください
- 加熱直後の袋は非常に熱くなっています。取り出すときはトングや菜箸を使い、やけどに注意してください
- 加熱時間は目安です。実際にご自宅の道具で一度試しておくと、いざというときに慌てません
- 食事に制限のある方(腎臓病・糖尿病・嚥下障害など)は、事前に主治医や管理栄養士にご相談ください
◎来月、地域向けの本番を控えています
今回は本番に向けた試作でした。来月、地域の皆さまに向けてパッククッキングをご紹介する機会を予定しています。今回見つかった課題(蒸しパンのレシピ改良、アルファ化米の戻し方の変更)を反映させて臨みます。
ごうホームクリニックでは、訪問診療とあわせて管理栄養士による栄養相談を行っています。在宅で療養されている方の災害時の備えについても、お食事の形態やご病気に合わせてご相談に応じます。気になることがあれば、お気軽にお声かけください。

ごうホームクリニック
院長 伊藤剛

